プロジェクトについて
背景
近年、国内外における野生鳥類種の生物多様性は急速に減少しています。これは、生物濃縮された農薬などの化学物質が、食物連鎖の上位に位置する鳥類の生存や繁殖に影響を及ぼすのが一因であると考えられています。しかし、その影響と被害の実態の詳細については依然として不明な点が多くあります。我が国では、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)の下、難分解性・高蓄積性化学物質を第一種特定化学物質に指定する際、その審査の判定材料の一つとして、鳥類繁殖毒性試験(OECDテストガイドライン206:TG206)に基づく調査が行われています。他方、農薬の安全性に関する新たな科学的知見の蓄積と科学の発展による評価法の改良を農薬登録制度へ反映するため、令和2年4月1日に改正農薬取締法が施行されました。この法改正により、農薬の影響を評価する対象が、従来の水産動植物だけでなく、陸域を含む生活環境動植物に拡大されました。農薬に対して鳥類登録基準値の設定によるリスク評価を行うことになった意義は大きいと言えます。しかし、現在の日本の鳥類登録基準値は急性毒性試験のみで決められており、慢性的な毒性影響や繁殖に及ぼす影響は考慮されていません。さらに、現行の鳥類繁殖毒性試験では多くの成鳥を供試しなければならず、動物愛護の観点から動物実験の削減も視野に入れた検討が必要になっています。
目的
本研究プロジェクトでは、ウズラの受精卵を使用した化学物質の毒性評価手法の研究開発を進めることで、鳥類繁殖毒性試験(TG206)の高コスト、試験精度、動物福祉などの課題を克服することが可能な新たな試験手法の確立を目的にしています。卵内投与試験法による鳥類の繁殖影響を評価する有害性評価指標(エンドポイント)を探索するとともに、毒性メカニズムを解明する研究を行い、新たなテストガイドラインの提案に貢献するような最新の科学的知見を提供することを目指しています。
研究の概要
本研究では、化学物質の鳥類卵内投与による性分化異常評価手法の開発を行います。具体的には、①生殖器(精巣・卵巣・副生殖器)、②生殖細胞(精子・卵子・始原生殖細胞)そして③脳における有害性に焦点を当てた3つのサブテーマの研究をすすめ、初期胚において迅速に性分化異常を検出するための有害性評価指標(エンドポイント)を確立します。化学物質による初期胚における異常の有無を検証するため、各種臓器と細胞の形態形成、性分化に関連する遺伝子発現、ホルモンなどの生理活性分子等について調べます。さらに、孵化個体の性成熟期における不可逆的な異常を検証することで、有害性評価指標(エンドポイント)の適格性を検証します。